カンチの3ポイントシュート

ゴールの遥か手前で無残にも失速する3ポイントシュート

痴漢冤罪のピンチ!30年後の超能力少年の話

   

 

黒いペンで書かれたイラストを赤くする。

無地の白シャツを赤くしてみる。

もう2週間。

飽きもせず、この毒にも薬にもならない「物質を赤くする特殊能力」で遊んでいる。

 

若い頃は私利私欲で特殊能力を使ったさ。

特殊能力を使い、カッコイイ所を女子たちに見せつけ、黄色い声を浴び

一躍ヒーローになった俺は女子たちを選り取りミドリ。

その先にある、ピンクな光景。

英雄色好む。

だが、そんな腹黒い目的の為に超能力を使ってもことごとく裏目に出たり、失敗に終わってばかりだった。

いつしか己の欲を満たす為に特殊能力を使うことをやめ

何の役にも立たない特殊能力を、こうして暇つぶしで使うようになった。

 

俺もすっかり歳を取り、今では立派な中年。そして、うだつの上がらないサラリーマン稼業だ。

特に「物質を赤くする特殊能力」を使った覚えはないのだが、「朱に交われば赤くなる」とはよく言ったものだ。

会社のお荷物社員が寄せ集められる窓際部署に配属されてからは

周りの負のオーラに飲み込まれたか、やる気のなさに拍車がかかる。

ああ、入社時は、この年齢になったら「いぶし銀」とか「ロマンスグレー」的な存在になる事を考えていたのになあ。

 

会社のエントランスにある、マーライオンの像の口から水が流れている。

その水を真っ赤にして「吐血!www」などと、ほくそ笑んだり

経理部の洋子さんの下着の色を勝手に赤くしたり。

しょうもない特殊能力でしょうもない事をし、しょうもない一日を終えるのだ。

 

―翌朝。

金切り声のようなアラームを止め、リビングに向かう。

菓子パンをほおばり、ブラウンシュガーの甘みを消すようにブラックコーヒーで流し込む。

この歳にして独身、一人暮らし。

荒んだ食生活と寝不足で、フワッと目の前が紫色になる。

しかし、そんな気だるく青白い顔も、朝の満員電車に乗り込めば一変する。

乗車率200%。

四方の人の塊に圧迫され、青白かった顔は、みるみる紅潮していく。

身動きひとつ取れやしねえ。

身動きひとつ取れやしねえのに、誰かが俺の右手を掴んだ。

 

「この人、痴漢です!」

俺の右手を掴んだ女が声を上げた。

いや、待て!俺はやってねえ!

ほかの乗客の白い目が俺に突き刺さる。

まさに青天の霹靂。

誤解を解こうと必死になるが女には届かず、ホームに引きずり出された。

色めきたつ俺を尻目に、女がホームの駅員に駆け寄った。

ここだ!ここしかねえ!

俺は意を決して、ギラギラと銀色に光る線路に飛び降り、逃走を図った。

線路沿いの金網を乗り越え、後ろを確認する。

正義感の強い男が俺を追いかけ、金網を乗り越えようとしている。

くそっ!なんで俺がこんな目に!俺はやってねえって!

 

青息吐息の中、目の前の横断歩道を走る。

そうだ!例の特殊能力を使おう!

俺は能力を使い、羽織っていた濃紺のスーツを真っ赤にした。

これで多少の目くらましになるだろう。

そして横断歩道を渡り終えた瞬間、信号を赤に変えてやる。

これで完璧だ。完璧な青写真だ。

…だが次の瞬間、物凄い衝撃音と共に、俺は宙に放り出された。

 

雲一つない、まさにスカイブルー。

鮮やかに突き抜けた水色の空に、吸い込まれそうになる。

それも一瞬。地球の重力に抗えるはずもなく

俺の体はドブネズミ色のアスファルトに叩きつけられた。

幸いなことに、宙に投げ出された俺はとっさに腕で顔を覆ったため

両腕の打撲と、右膝にほんの少しの傷で済んだ。

一体、なんだ?車が衝突したのか…?

しかし、車道側の信号は赤だったはずだ。

なんで、どうして?

信号無視か?

両腕に力が入らない俺は、アスファルトから顔だけ上げた。

なんで、どうして…。

 

 

なんで!どうして!こんな所に闘牛がいるんや!!!!!!

(阪急交通社)

いや、いい…。

いつだって俺はこんな理不尽な目に遭ってきたんだ…。

とにかく、ここに闘牛がいたんだ…。

そして真っ赤に変えたスーツを着た俺を目掛けて、闘牛が突進してきたんだ。

それ以上はもう、何も考えまい…。

 

アスファルトに横たわる俺を、親切な通行人たちが抱え上げ、安全な街路樹の下へ運んでくれた。

春風がそよぎ、緑の木々がざわめく。

「ふっ…。俺もまだまだ青いな…。」

今でこそ、うだつの上がらないサラリーマンだが、それでも俺様は特殊能力者だ。

せいいっぱい気丈に振る舞い、そう呟きながらニヒルに笑った。

 

「すみません!私のせいで…。」

なんで、どうしてお前が?

俺の右手を掴み、俺を痴漢扱いした女が駆け寄ってきた。

どうやらこんな大事になり、痴漢の真犯人が自首したらしい。

俺の冤罪が晴れたのだ。

しかし初めてじゃないか?特殊能力を使ってバッド・エンドにならなかったパターン。

飛んだ赤っ恥をかかされ、こんな目に遭ったものの

大怪我ではなさそうだし、何より痴漢の嫌疑が晴れたのだ。

やはり己のゲスな欲望を満たす為に特殊能力を使わなければ、最悪の事態は免れる…んだ…な・・・

な・・・なっ・・・

なんで、どうして?

何故そんなことをするんだよ…。

 

女がカバンからハンカチを取り出し、俺の顔の前でヒラヒラさせた。

 

「これで血を拭ってください。」

良かれと思って差し出した女のハンカチは真っ赤だった。

当然のように突進してくる闘牛。

マタドールのように闘牛をかわす女。

再度、宙に投げ出される俺。

 

そうさ、これでいい。このオチでいい。

これこそが俺のカラーなのだから―。

 



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